セルフコンパッションって、名前だけ聞くと少しふわっとした言葉に聞こえるかもしれません。けれど、ぼくはこれはかなり現実的な「心の扱い方」だと思っています。
毎日ちゃんとやろうとしているのに、夜ベッドに入ると、その日うまくいかなかったところだけがリピート再生されることはありませんか。あのときの一言、あのときの判断、あのときのミス。周りはもう忘れているかもしれないのに、自分だけが自分を責め続けている時間です。
セルフコンパッションは、その時間に少しだけ違う選択肢を差し込む考え方です。やらかした事実はそのまま認める。でも、そのうえで自分を殴り続けるのではなく、必要なケアをしてあげる。言い換えるなら、「どんな状態の自分も見捨てない態度」を身につけていくことです。
ここからは、きれいごとではなく、忙しい日常の中にどう落とし込むかを前提に話していきます。全部をいきなり変える必要はありません。今日からできることを、ひとつずつ拾い上げていきましょう。
目次
「なんで自分にだけこんなに厳しいんだろう」と感じているあなたへ
自分に厳しい人ほど、外から見える姿と内側の声のギャップが大きくなりがちです。周りからはまじめで頼りになると言われるのに、自分の頭の中では罵倒やダメ出しが止まらない。そんな状態が続くと、心は少しずつすり減っていきます。
例えば、こんなことはないでしょうか。
- ミスをしたとき、内容より先に「やっぱり自分はダメだ」と考えてしまう
- 褒められても「まぐれだ」「たまたまだ」と受け取れない
- 誰かに迷惑をかけたかもしれないとき、相手の顔色を何度も思い出して消耗する
- 寝る前に、その日できなかったことだけを頭の中でリストアップしてしまう
- 少し休むと「甘えている気がする」と落ち着かなくなる
こうした思考のクセは、一度身についてしまうと、自動的に再生されてしまいます。そこで、一度立ち止まって、自分の今の状態を軽くチェックしてみましょう。
自分を責めがちな状態チェックリスト
下の項目で「よくある」「ときどきある」と感じるものに、心の中で丸をつけてみてください。
| チェック項目 | YES/NO |
|---|---|
| 些細なミスでも、一日中頭から離れない | |
| 褒められても、内心では「自分なんて」と受け流してしまう | |
| 他人には優しい言葉をかけられるのに、自分にはとても冷たい | |
| 何かうまくいかないことがあると、過去の失敗まで一気に思い出す | |
| 休んでいるときに、強い罪悪感や焦りを感じやすい | |
| 何か起きると「自分が悪いからだ」と原因をすべて背負い込みやすい | |
| 心や体が限界に近いと感じていても、「ここで止まったら終わりだ」と走り続けてしまう |
三つ以上「YES」に近い感覚があったなら、かなり自分に厳しいモードで生きている可能性があります。ここで大事なのは、「だから自分は意志が弱い」「メンタルが弱い」ともう一段階自分を殴らないことです。
このチェックは、自分を裁くためではなく、自分の扱い方を変える入口を見つけるためのものです。今の自分がどんな状態で走っているのかに、少しだけ明かりをつけてあげるところから始めていきましょう。
セルフコンパッションとは何か?ざっくり三つの要素で整理する
セルフコンパッションを直訳すると、自分への思いやりです。とはいえ、そのままだとどうしてもふわっとしてしまうので、ここでは三つの要素に分けて整理してみます。
ひとつめは、自分への優しさです。失敗したとき、うまくいかなかったときに、自分にどんな言葉をかけているか。そこで自動的に出てくるのが「何やってるんだ」「本当にダメだな」ばかりだとしたら、その声を少しずつ差し替えていくのがこの要素の役割です。
ふたつめは、苦しみは自分だけのものではないと捉える視点です。人は、自分だけが取り残されていると感じるときに、苦しさが何倍にも増幅されます。同じような場面で、同じように落ち込んでいる人が世の中にたくさんいると知るだけでも、心の重さは少し軽くなります。
みっつめは、今感じている気持ちから目をそらさない姿勢です。落ち込んでいる自分にイラついて、「こんなことでへこんでいる自分が嫌だ」とさらに上乗せで責めてしまうと、傷は深くなってしまいます。そうではなく、「今の自分はかなり落ち込んでいるな」とそのまま認めてあげること。これは感情を甘やかす行為ではなく、自分の状態を正確に把握する動きに近いです。
この三つを、それぞれ少しずつ育てていくこと。それがセルフコンパッションです。どれも特殊な才能ではなく、筋トレのように少しずつ鍛えられるものだと思っておいて大丈夫です。
三つの要素を自分にあてはめてみる
ここで一度、さきほどの三つを自分に当てはめて考えてみましょう。
- 自分への優しさ
- 苦しみはみんなに共通しているという視点
- 今の気持ちをそのまま認める態度
この中で、「これがいちばん弱いかもしれない」と感じたものはどれでしょうか。全部を一度に完璧にしようとする必要はありません。この記事では特に、自分への優しさと言葉の部分にフォーカスしていきます。そこから始めるだけでも、心の摩耗具合はかなり変わっていきます。
セルフコンパッションは甘えではない。よくある勘違いとの違い
ここで出てきやすいのが、「自分に優しくするなんて甘えではないか」という感覚です。まじめな人ほど、この抵抗が強くなります。そこで一度、似ているようで違う三つの考え方を比べてみます。
- 自分を甘やかす
- 自己肯定感を上げること
- セルフコンパッション
それぞれの特徴を、ざっくりとまとめるとこんなイメージになります。
自分を甘やかす・自己肯定感・セルフコンパッションの比較表
| 視点 | 自分を甘やかす | 自己肯定感を上げる | セルフコンパッション |
|---|---|---|---|
| 目的 | 今のつらさからとりあえず逃げる | 自分には価値があると感じたい | つらいときにも自分の味方でいる |
| 現実との向き合い方 | 不快なことから遠ざかる方向で決めがち | できている部分に光を当てる | 事実は事実として見たうえで、自分を責めすぎない |
| 行動へのつながり | 楽な選択が優先されやすい | 自信がつくと動きやすくなる | 落ち込みから回復しやすくなり、必要な行動を選びやすくなる |
| 感情のトーン | 一時的な気晴らしが中心 | 自分に対する評価を上げるイメージ | しんどさを抱えたままでも、自分を見捨てない落ち着いた感覚 |
自分を甘やかすことは、一時的にしんどさを忘れさせてくれることもあります。ただ、それだけだと問題の先送りになりやすく、後でツケが回ってきてさらに自分を責める材料になってしまいます。
自己肯定感を上げる試みも、とても大事な方向です。ただ、「自分には価値がある」とどうしても思えないとき、そこに無理やりジャンプしようとすると苦しくなることがあります。
セルフコンパッションは、もう少し手前の段階にある考え方です。自分の価値を高く評価できない日でも、「それでも今の自分を見捨てない」「落ち込んでいる自分を乱暴に扱わない」ことを大切にします。
大きく変わる必要はありません。自分への態度を、ほんの少し優しいほうに傾ける。その積み重ねが、結果的に行動の質や選択の仕方を変えていきます。
忙しい日でもできる、三十秒セルフコンパッション
ここからは具体的なやり方に入っていきます。最初から難しいことをすると続かないので、まずは三十秒あればできる形に落とし込んでみます。
流れはとてもシンプルです。
- 今の気持ちに名前をつける
- 友だちにかける言葉を、自分に向けてみる
- 深呼吸しながら、その言葉を受け取る時間をつくる
この三つだけです。一つずつ見ていきます。
ステップ一:今の気持ちに名前をつける
まずは、自分が今何を感じているのかに言葉をつけます。例えば、こんな言葉です。
- かなり悔しい
- すごく恥ずかしい
- 怒りが残っている
- 情けないと感じている
- 怖さがある
ここで大事なのは、「こんなことで落ち込んでいる自分が嫌だ」と二重にジャッジしないことです。気持ちに名前をつけるのは、自分を責めるためではなく、状態を把握するための作業です。
頭の中でつぶやいてもいいですし、スマホのメモに一言だけ書き残してもかまいません。
ステップ二:友だちに言うなら、何て言うかを考える
次に、まったく同じ状況で落ち込んでいる友だちを思い浮かべてみます。その友だちが「自分なんてダメだ」と言っていたら、あなたは何て返すでしょうか。
- あの状況なら、誰でもミスする可能性はあったと思う
- 今日までちゃんと準備していたのも知っている
- 結果は悔しいけど、それであなたの全部が決まるわけじゃない
こんなふうに、相手にはひどい言葉はあまり向けないはずです。その言葉を、そのまま自分に向けてみます。
ここで違和感を覚える人も多いと思います。「そんなやさしい言葉を自分に向けるなんて、むずがゆい」と感じても大丈夫です。その違和感ごと含めて、「今はまだ慣れていない段階なんだな」と眺めておくことがスタートになります。
ステップ三:深呼吸しながら、その言葉を受け取る
最後に、さきほどの言葉を心の中でゆっくり繰り返しながら、深呼吸を数回くり返します。呼吸に合わせて、次のイメージを持ってみてください。
- 吸うときは、体の中に少しだけ余裕を取り戻すように
- 吐くときは、自分を責める声を少しずつ外に出していくように
それだけです。ここまでをやっても、すぐに気持ちがぱっと明るくなるとは限りません。それでも、心の中で自分を殴り続けている状態からは、確実に一歩離れることができます。
忙しい日なら、この三十秒版だけでも十分です。慣れてきたら、後で出てくる台本やメモを少しずつ増やしていくと、さらに扱いやすくなっていきます。
うまくできないときのつまずき集と、小さなすり合わせ
実際にやってみると、いろいろなところで引っかかりが出てきます。「やってみたけれど、全然効いている感じがしない」「そもそもやるのを忘れる」といった感覚です。ここでは、よくある疑問をまとめておきます。
よくある疑問と答え
Q1 気持ちが軽くならないときは、失敗ですか?
まず前提として、これは一回で劇的に気分を変える魔法ではありません。心の筋肉を少しずつつけていくイメージに近いです。
やっても変わらないと感じるときは、次のあたりを見直してみてください。
- 気持ちに名前をつける段階で、自分を責める言葉が混ざっていないか
- 友だちにかける言葉が、現実離れしたポジティブになっていないか
- 呼吸の時間を、「何も考えないための現実逃避」にだけ使っていないか
全部を完璧にこなす必要はありません。「自分を責めるループに入りきる前に、一度だけ立ち止まれた」なら、それだけでもかなり前進です。
Q2 自分に優しい言葉をかけると、甘えてしまいそうで怖いです
この怖さは、とても自然な反応です。これまで「厳しくしていないと崩れてしまう」と感じてきた人ほど、その感覚は強くなります。
ここで一度問い直してみたいのは、「厳しくし続けてきた結果、今どんな状態になっているか」です。心や体が限界に近いと感じているなら、今のやり方のまま進んだ先にある未来は、かなりしんどいものになるはずです。
セルフコンパッションは、サボるための免罪符ではありません。燃え尽きる前に体勢を立て直すための、現実的な調整として捉えてみてください。
Q3 三十秒でできると分かっていても、そもそも思い出せません
人は、つらさの真っ最中にいるときほど、柔らかい選択肢を思い出しにくくなります。なので、「思い出せない自分」を責める必要はまったくありません。
対策としては、環境側に仕掛けを置いておくのがいちばん現実的です。
- スマホのホーム画面に、一言だけセルフコンパッション用のフレーズを置いておく
- 手帳のはじに、自分にかけたい言葉をメモしておく
- よく見る場所に、小さな付箋を貼っておく
人間の記憶力には頼らず、目に入るものに助けてもらうくらいでちょうどいいです。
Q4 自分のことを励ます言葉が、どうしても嘘っぽく感じてしまいます
嘘っぽく感じるときは、言葉のハードルが高すぎるのかもしれません。派手で前向きな一言である必要はありません。
例えば、こんな一言でも十分です。
- あの状況で、最後まで逃げずによくやった
- 今は落ち込んでいても、ここまで積み上げてきた日は消えない
- 今日の自分にできることは、今日の分だけでいい
重要なのは、「自分がかろうじて信じられるラインにいるかどうか」です。少し地味なくらいが、ちょうどいいと思っておいて大丈夫です。
シーン別セルフコンパッション台本
ここからは、実際の生活の中でよくある場面ごとに、自分にかけてあげたい言葉の例を並べていきます。あくまでサンプルなので、そのまま使ってもいいし、自分の言葉に少し変えてもらってもかまいません。
仕事でミスをしてしまったとき
大事なメールの宛先を間違えた、数字を一桁打ち間違えた、期限を勘違いしていた。仕事のミスは、どうしても自分の価値と直結して感じやすいものです。
そんなとき、自分に向けて使える言葉の例です。
- 今日のミスはたしかに痛い。でも、これまでやってきた積み上げまで全部ゼロになるわけではない
- あの状況で焦っていたのは、仕事をきちんとやろうとしていたからだ
- 事実としてはミスをした。でも、それをどうリカバーするかを考えられているのも事実だ
ここでポイントになるのは、ミスの影響を軽く見積もることではなく、「自分の人格すべてと結びつけない」ことです。
人間関係で気まずくなってしまったとき
ちょっとした発言で相手を怒らせてしまった気がするとき、ぼくらの頭の中では反省会が何十回も繰り返されます。あの一言を引っ込めればよかった、と自分を責め続けてしまう場面です。
そんなとき、自分にかけたい一言です。
- あのときの選択は、今振り返るとたしかにベストではなかった
- でも、その瞬間の自分には精一杯の判断だった
- 同じことを繰り返さないように、今こうして振り返っているだけでも前に進んでいる
人間関係は、自分だけでコントロールできるものではありません。自分の振る舞いを振り返るのは大切ですが、その全責任を一人で背負い込む必要はないはずです。
創作や挑戦がうまくいかない日
作品が思うように仕上がらない、申し込んだコンテストで落ちてしまった、新しい挑戦が空振りに終わった。何かを生み出したり、前に出たりするときの失敗は、特に強く心に残ります。
そんな日に試してみたい言葉です。
- 今日の結果は悔しいけれど、やってみた自分をなかったことにはしない
- うまくいかなかった事実と、挑戦した事実は別々に見ていい
- 何もしていなかったころの自分より、今の自分は少なくとも一歩外に出ている
挑戦の数が増えるほど、うまくいかない日も増えます。そこをすべて自己否定に結びつけてしまうと、新しい一歩を踏み出しづらくなってしまいます。セルフコンパッションは、その連鎖をゆっくりほどいていくための視点です。
今日からできる「自分を労わる」ワンアクション
ここまで読んで、「やってみてもいいかもしれない」と少しでも感じてもらえていたらうれしいです。ただ、頭で分かっていても、日常に落とすのはまた別の話です。そこで、今日からできるワンアクションを決めてしまいましょう。
ぼくのおすすめは、スマホのメモに一つだけ「自分を労わる言葉」を書いておくことです。長文である必要はありません。さきほどの台本から一つ選んでもいいし、自分なりの言葉を考えてもかまいません。
例えば、こんな一言です。
- 今日もここまで来た自分に、おつかれさまと言っていい
- 失敗した日も、頑張らなかった日も、人としての価値は変わらない
- 今できることが少なくても、それが今日の限界値なら十分
このメモを、しんどくなりやすい時間帯に見える場所に置いておきます。寝る前なら、ベッドに入る前に一度だけ開く。通勤中なら、電車に乗ったら見る。タイミングをひとつ決めておくと、習慣化しやすくなります。
最終的に、どんな考え方を選べばいいのか(選ぶ基準)
最後に、ここまでの話を「選ぶ基準」として整理しておきます。
- 心や体が限界に近いと感じているなら、自分に厳しくし続けるやり方だけで走るのは危険ゾーンに入っているサインです。
- 自分を甘やかすことが多いと感じるなら、「事実は見る、人格は殴らない」というラインを意識するとバランスが取りやすくなります。
- 自分の価値を高く評価するのがどうしても難しいときは、無理に自己評価を上げようとするよりも、「それでも見捨てない態度」を育てるほうが現実的です。
- 忙しくて時間がないなら、三十秒セルフコンパッションだけをやる日があってもいいと決めておくことが、継続のカギになります。
- どのアプローチを選ぶにしても、「自分を守るためにそうしている」という視点を忘れないことが、自分への尊重につながります。
そして、この記事の核として、ひとつだけお願いがあるとしたら、これです。
今日のうちに、スマホのメモに「自分を労わる言葉」を一行だけ書いておいてください。
完璧な言葉じゃなくてかまいません。むしろ、少し不器用で、少し照れくさいくらいがちょうどいいです。その一行は、いつかしんどくなったときの、自分を守る小さなクッションになってくれます。
うまくいかない日も、何もできなかった日も、そのメモを開いた瞬間だけは、自分の味方でいてあげましょう。そこから先の一歩は、そのときの自分と相談しながら、ゆっくり決めていけば大丈夫です。




